今回は、行政書士試験における家庭教師の立場で、民法の時効(取得時効・消滅時効)について考えていきたいと思います。
時効について
時効には、権利の取得効果が与えられる「取得時効」と、権利が消滅する「消滅時効」があります。
時効の主旨
時効制度が何故存在しているのかは以下の考え方によると考えられます。
1、永続した事実状態を法律上も尊重することによって、社会秩序や法的安定性を図るということ。
2、証拠の散逸による権利関係の立証の困難を救済すること。
3、権利の上に眠る者は保護に値しないということ。
上記3点が時効制度の主旨であると考えられます。
取得時効
取得時効とは、権利者らしい状態が一定の期間継続することにより、権利取得の効果が与えられる時効をいいます。
取得時効の要件
取得時効の要件は行政書士試験においても、とても重要です。
1、所有の意思をもって
2、平穏かつ公然と
3、他人の物を
4、占有すること及び
5、時効期間が満了すること
という5つの要件があります。
占有について
取得時効が成立するためには、上記要件で記載した通り、占有を継続することが必要になります。
この占有の立証においては、前後2つの時点で占有したことを立証すれば、占有はその間継続したものと推定されます。
つまり、最初と最後の占有を立証する必要があるということです。
ここで、もう一つ注意しておかなければならないことは、推定されるということです。
時効における、自主占有・平穏かつ公然、に占有しているということは推定されます。
擬制はされませんので、注意しなければなりません。
時効期間について
時効期間は、
占有開始時に善意無過失であれば、10年
それ以外の場合は、20年
となります。
無過失は推定されない
時効においては、善意は推定されますが、無過失は推定されません。
したがって、取得時効の主張者が立証責任を負うことになります。
また、占有の初めに善意無過失であれば、途中で悪意になったとしても10年で時効取得をすることが可能です。
そして、占有を承継した場合は、占有者は自己固有の占有か前朱の占有を合わせた占有を主張することができます。
この場合において、前朱の占有をあわせて主張する場合は、前主の瑕疵も承継することになります。
例えば
-
Aさんが所有者
Bさんが悪意でAさんの所有物を占有開始(4年占有)
その後BさんがCさんにAさんの所有物を売却(CさんはAさんの所有物であるということを知らない(善意無過失)。Cさんは9年占有)
この場合、CさんはBさんの占有をあわせた占有(このケースでは13年)かCさん固有の占有(子のケースでは9年)を主張することになります。
しかし、Bさんの占有をあわせた主張をする場合、Bさんの瑕疵(このケースでは悪意)までも継承するので、時効取得を主張することはできません。
当然、Cさん固有の占有を主張する場合でも、10年占有していませんので、時効取得を主張することはできません。(1年待つ必要があります。)
消滅時効について
消滅時効とは、法律上は権利を行使することができるにもかかわらず、権利者が権利を行使しない状態が一定の期間継続した場合に、その 権利を消滅させる時効をいいます。
対象となる権利
消滅時効の対象となる権利は
債権と債権又は所有権以外の財産権です。(例えば地上権・永小作権・地役権等)
注意しなければならないことは、
所有権・占有権は消滅時効の対象とはなりません。
時効期間の起算点とは
消滅時効は、権利を行使することができる時から起算することになります。
この起算点については、覚えるべきポイントが沢山ありますので、しっかり理解をする必要があります。
今回は、2つあげておきます。
1、確定期限の定めのある債権・・・期限到来時
2、不法行為に基づく損害賠償請求権・・・損害及び加害者を知った時
上記以外にも確認しておく必要があります。
また、履行遅滞の起算点との違いにも注意が必要です。
消滅時効の期間について
消滅時効の期間については
債権・・・10年
債権・所有権以外の財産権・・・20年
となっています。
時効の援用について
時効の援用とは、 時効利益を受ける意思を表示することをいいます。
判例・通説では停止条件説をとっていますので、
時効が完成しても、当事者が援用しない限り時効の効果は生じないとされています。
また、停止条件説では、裁判街の援用・裁判外の放棄は可能ですが、援用の撤回はできません。
援用権者とは
援用権者とは、援用ができる者をいいます。
援用権者の範囲については、判例では時効により直接利益を受ける者と解されています。
判例で援用権者と認められたもの、認められなかった者はテキスト等で確認しておく必要があります。
時効利益の放棄について
時効利益の放棄とは、時効完成後に時効の利益を受けないという意思表示をすることをいいます。
この時効利益の放棄の意思表示は、 時効完成後にする必要があり、時効完成前に放棄をすることはできません。
つまり、何かを契約する際にあらかじめ契約書に時効利益を放棄する等のことが記載されている場合は、その部分は無効になります。
そして、時効利益を放棄すると援用をすることができなくなります。
ただし、判例では時効利益の放棄の後、新たに時効期間が中断なしに経過した場合については、新たな時効が完成し、援用することが可能であるとされています。
時効完成後の自認行為について
時効の完成を知ってなされた自認行為(債務の弁済、弁済猶予の申し入れ等)については、時効利益の放棄に当然あたります。
また、時効完成を知らないで自認行為をした場合については、時効の完成を知らない以上、時効利益の放棄にはあたりません。
しかし、この場合でも判例では信義則上、債務者が時効を援用することは許されないとされています。
時効は遡及する
取得時効の場合は、占有の開始時に遡って権利を取得します。
また、消滅時効においては、権利を行使することができる時に遡って権利を失うことになります。
時効の中断について
時効の中断とは、言い換えるとリセットするということです。
時効が中断される場合は以下のケースです。
法定中断事由
法定中断事由には4つあります。
請求
法定中断事由における請求とは、裁判上の請求をいいます。
差押え、仮差押え及び仮処分
公的な権利実行行為になるので、時効中断の効果が認められています。
承認
一部弁済・利息の支払・支払猶予の申し入れ等が債務者からあれば、時効は中断します。
催告
催告だけでは、時効の中断までの効果は発生しません。
しかし、催告後6ヶ月以内に、裁判上の請求等をすれば時効中断の効果を生じることができます。
自然中断事由について
自然中断事由とは、取得時効において占有・準占有状態が失われれば、時効が中断することになります。
時効の停止もある
例えば、未成年者・成年被後見人につき、法定代理人が不在の場合は6ヶ月間(法定代理人就任時から等)時効の完成を猶予することができます。
時効に似た制度
時効に似た制度として、除斥期間vがあります。
除斥期間とは、一定の期間内に権利を行使しないとその期間の経過によって、権利が当然に消滅する制度をいいます。
消滅時効との違い
消滅時効との違いは
1、援用が不要
2、遡及効がない
3、起算点が、権利行使可能時でなく、権利の発生時
4、中断がない
上記の点で、消滅時効とは異なるところがあります。
まとめ
今回は、民法における取得時効・消滅時効について行政書士の家庭教師としての立場で考えてきました。
皆様の参考になれば幸いです。