資本金が1円以上あれば会社設立ができるようになったため、個人事業から法人成りをするケースや副業の一環として会社を設立し事業を行うことが簡単にできるようになりました。
株式会社を設立する場合には、事前に定款などの書類を作成し、公証人から公証を得る必要があります。
以前は紙媒体で定款を作成することが主流でしたが、近年では電子定款として定款を作成し、公証人から認証を受けるケースも多くなっています。
そこで、今回は電子定款のやり方や作成方法、流れ等について解説していきたいと思います。
会社設立を検討している方の参考になれば幸いです。
電子定款とは?
そもそも定款とは、株式会社等の法人の目的や内部組織、活動に関する規則を書面又は電磁的記録に記録したものをいいます。
つまり、言い換えると会社の根本原則が記載された「会社の憲法」であるということができます。
この「会社の憲法」である定款をPDF(電子ファイルの形式)で作成したものが電子定款と言われています。
電子定款のメリット
紙媒体で定款を作成することもできますが、最近では電子定款で作成することが主流になっています。
理由としては、電子定款で作成することのメリットをあげることができます。
そのメリットは、電子定款で作成することで紙の定款作成時に必要となる印紙代が不要になるということです。
紙媒体の定款では、印紙代が4万円必要になりますが、電子定款の場合は印紙代が不要になることで会社設立に際して4万円の経費を削減することが可能になります。
ただし、電子定款で会社を設立する場合には、後述するICカードリーダー等の備品も必要になるため、個人の方が電子定款で会社を設立するケースでは、備品等の総額で4万円程度必要になりますので、結果として経費としてはあまりかわらない可能性があります。
電子定款の作成に必要なもの
電子定款を作成するために具体的に必要な備品は以下のものがあります。
1、電子証明書付のマイナンバーカード
2、電子署名ソフト
3、ICカードリーダライタ
4、電子署名のプラグインソフト
上記の備品等が必要になります。
電子証明書付のマイナンバーカード
これは、紙媒体で交付されている通知カードではなく、郵便やパソコンなどから交付申請を行い、役所で発行される顔写真付きのマイナンバーカードが必要になります。
マイナンバーカードの交付申請を行う際に、電子証明書付の6文字の暗証番号を定める必要があり、電子定款の作成にはマイナンバーカードをICカードリーダライタに差し込み、この暗証番号を入力する必要があるので、忘れないようにしなければいけません。なお、この暗証番号の入力を3回間違えてしまうと、ロックがかかり、役所に行きロックを解除してもらわないといけなくなるので、間違えないように注意が必要です。
マイナンバーカードの交付申請については、マイナンバー総合サイトで申請方法等の詳細が公表されていますので、参考にしてください。↓
電子署名ソフト
定款をWord等で作成した後に、電子定款にするためには作成した定款をPDFデータに変換する必要があります。そして、そのPDFデータに電子署名を挿入しなければなりません。
代表的なPDF変換ソフトとしては「Adobe Acrobat」があります。
Adobeの製品は無料でも使用できるフリーミアムなので基本機能は無料で使用できますが、電子署名を行うためには有料の「Adobe Acrobat」が必要になりますので注意が必要です。
Adobe Acrobatについては、アドビ株式会社のHPにて製品情報が掲載されていますので、参考にしてください。↓
ちなみに電子署名とは、一言でまとめると「電子文書が正式なものであり、かつ改ざんされていないことを証明するもの」と言い換えることができます。
つまり、電子定款を作成するにあたって、電子署名を行うことは絶対に必要な工程になります。
ICカードリーダライタ
電子定款を作成するためには、パソコンからマイナンバーカードを読み込む必要があります。
そのマイナンバーカードを読み込むために必要なものがICカードリーダライタです。
家電量販店等でも販売しているので、すぐに手に入れることができますが、マイナンバーカードの読み込みに対応していないものもあるため、購入する際は対応しているかどうかのチェックが必要です。
マイナンバーカードに対応しているかどうかは、「地方公共団体情報システム機構」から発表されていますので参考にしてください。↓
地方公共団体情報システム機構 公的個人認証サービスポータルサイト
電子署名のプラグインソフト
電子定款を作成するにあたって、電子署名のプラグインソフトをインストールする必要があります。
例えば「Adobe Acrobat」を使用している場合は、登記・供託オンライン申請システムが提供するPDF署名プラグインソフトを使ってPDFに電子署名を付与することが可能になります。
登記・供託オンライン申請システムについては、以下から利用者登録等を行うことができます。↓
電子定款の作成方法
上記に記載した備品等が揃えば、いよいよ電子定款の作成に入ります。
定款の作成
電子定款と言っても、まずはWord等の文書作成ソフトで定款を作成する必要があります。
「商号」「事業目的」「本社所在地」「資本金」「発起人の氏名、住所」等の「絶対的記載事項」や「相対的記載事項」等を定款に記載し、定款を作成していきます。
Wordで定款の作成ができたら、事前に定款認証をしてもらう予定の公証人と連絡を取り、記載内容に不備がないかの確認をしてもらうことをお勧めします。
定款に不備があれば、公証してもらえないため、念のために事前チェックを受けておけば安心です。
作成した定款をPDFに変換
公証人の事前確認も終わり、問題なければWordで作成した定款をPDFデータに変換します。
Windowsであればファイルを選択し、PDFに保存を選択すればPDFデータに変換することができます。↓
Adobe Acrobatの環境設定
電子定款にするためには、電子署名が必要であることは上述したとおりです。
電子署名をするためには、Adobe Acrobatの環境設定を少し変える必要があります。
以下の手順でAdobe Acrobatの環境設定の環境設定を行います。↓
1、メニューから[編集]→[環境設定]→[一般]をクリック。
「署名」を選択し、「作成と表示方法」にある[詳細]をクリック。
2、「作成と表示方法の環境設定」画面が表示されるので「デフォルトの署名方法」から[SignedPDF]を選択し、[OK]をクリック。
3、SignedPDFを使用する為の環境設定
メニューから[編集]→[環境設定]→[SignedPDF]をクリック。
「環境設定」画面が表示されるので、[公的個人認証ICカード(個人番号カード)]を選択↓
電子署名を行う
上記設定が完了したらいよいよ電子署名を行います。
マイナンバーカードをICカードリーダライタに差し込み、読み込みを行える状態にしておきます。
1、Adobe Acrobatメニュー画面の[ツール]を選択して[証明書]アイコンをクリック。↓
2、「証明書メニューバー」の[電子署名(デジタル署名)]をクリック。
そして、電子署名したい場所をマウスでドラッグすれば、その箇所に電子署名「印」が押印されます。
署名が完了すれあ「印」という印影が表示されます。↓
なお、「Adobe Acrobat」では、電子署名完了後、「この製品では、検証できません。」と表示されますが、特に気にする必要はありません。↓
上記の流れで「電子定款」の作成が完了です。
電子定款の認証方法
電子定款が完成したら、次は作成した定款を公証人に認証してもらう必要があります。
電子定款として認証してもらうにあたり、まずは「登記・供託オンライン申請システム」の登録が必要になります。
手順は以下のとおりです。
定款認証の申請者情報を登録
登記・供託オンライン申請システムより利用者登録を行います。この時に、申請者IDとパスワードが発行されますので、忘れないように控えておくことが必要です。
申請用総合ソフトのダウンロード
以下のサイトから申請用総合ソフトをダウンロードします。↓
ダウンロード完了後、申請用総合ソフトを起動、ログインを行い、申請書の作成をクリック。↓
「電子公証」を選択し、「電磁的記録の認証の嘱託【署名要】」をクリック。↓
申請及び請求情報の入力
「公証人氏名(法務局名・公証役場名・公証人)」や「申請者名」「実質的支配者」等の情報を入力していきます。
全ての入力が完成したら、「完了」ボタンをクリックします。↓
作成した電子定款を添付する
情報の入力が完成した後は、上記で作成した電子定款を申請用総合ソフト内に添付します。
ホーム画面からファイル添付をクリックすると以下の画面が出てきますので、ファイル追加をクリックします。↓
上記画面で作成した電子定款を選択すると電子定款が添付された状態になります。
電子署名の付与
ホーム画面から署名を付与を選択すると以下の画面が出くるのでICカードで署名をクリックします。↓
マイナンバーカード交付時に設定した暗証番号等を入力する画面が出てきますので、マイナンバーカードを差し込み暗証番号を入力します。
データの送信
ホーム画面から「申請データ送信」をクリックすると以下の画面が出てくるので、送信するデータを選択して、送信をクリックします。
以上の作業を行い、公証人に電子データの送信を行います。
公証役場で定款を受け取る
上記の申請データの送信に不備がなければ、公証役場で定款を受け取りに行きます。
なお、事前に公証役場に行く際は電話での予約が必要となりますので、忘れないように注意が必要です。
公証役場に行くときに必要なものは以下のものがあります。
・CD-R等の記録媒体
・電子定款をプリントアウトしたもの×2通
・発起人(出資者)全員の印鑑証明書
・電子署名をした発起人以外の委任状(発起人が複数いる場合)
・認証手数料(50,000円前後)
・身分証明書
・印鑑
等が必要になります。
CD-R等は忘れがちなので忘れないようにしましょう。
また、2022年1月1日から、定款の認証にかかる手数料が以下に変更されています。
資本金100万円未満:30,000円
資本金100万円以上300万円未満:40,000円
資本金300万円以上:50,000円
電子定款を利用すれば安くすむの?
上述したとおり、電子定款を利用して定款を作成すると40,000円の費用を節約することができます。
しかし、個人の方が電子定款を利用するには、Adobe Acrobatの有料版が必要になったり、ICカードリーダライタが必要になったりと、同じくらいの費用がかかってしまいます。
また、定款作成等の書類作成に慣れていない場合は、時間もかかり費用対効果も悪くなりがちです。
そのため、書類作成のプロである行政書士に電子定款の作成を依頼する等も選択肢の一つとして有効です。
また、行政書士は司法書士とも繋がっていることが多いので、ワンストップで会社設立のサービスを提供することも可能です。
まとめ
今回は、電子定款の作成方法や流れ等をわかりやすく解説してきました。
会社設立後に営業許可等を取得する場合は、事前に行政書士に相談して、定款の目的等についてのアドバイスを受けていると、スムーズに許認可取得も可能になります。
今回の記事が皆様の参考になれば幸いです。
※登記・供託オンライン申請システム 申請者操作手引書から一部引用しています。
会社設立後に、営業許可が必要な事業を行う場合は、当社でサポートすることが可能ですので、是非一度ご相談ください。
営業許可等については、日々以下のブログで更新していますので、ぜひ参考にしてください。↓